フリーマーチン freemartinismとは異性多胎で生まれた雌畜が不妊となる現象である(
3)。フリーマーチンはウシでよく知られているが、ブタ、めん羊、ヤギ(シバヤギを除く)でも報告がある(
1)。
異性多胎で生まれた雌ウシの92%はフリーマーチンであると言われている(
2,3)。異性多胎でフリーマーチンの起こらなかった8%の雌ウシでは胎盤組織の融合が起こらなかったか、あるいは性腺が完全に分化した後に胎盤組織の融合が起こったかのどちらかである(
2)。
フリーマーチンは2つの胚の胎盤が発生の早い段階で融合し、妊娠期間を通して血液を共有することによって起こる(
3)。この胎盤絨毛膜血管の融合は妊娠30~50日の間に起こるとされている(
3)が、多くは妊娠28~30日の間(
2)、性腺分化(妊娠40~50日)の前に起こる(
3)。ウシでは雄の精巣は卵巣より早い時期に発生するため、精巣のホルモン(AMH: 抗ミューラー管ホルモン anti-mullerian hormone)が血中に分泌され、雌ウシの内部生殖器の発達を妨げると考えられている(
2)。また、雄胎子由来のH-Y抗原も雌ウシの雄化に関与している(
2)。
フリーマーチンの生殖器の分化は個体によってまちまちであるが多くが完全に分化していない(
3)。外陰部の外貌もさまざまで、正常なものから肛門膣間距離が長いもの、外陰部の小さいもの、外陰部の下部から毛が生えているものなどもいる(
2)。しかし、正常であるものが大部分を占める(
2,3)。多くは内部生殖器に異常があり、最も多いケースは卵巣低形成、短い膣、子宮頚の欠如である。また、直腸閉鎖症、尿道低形成を併発していることも珍しくない(
2)。
同腹の雄も雌と同様、性染色体キメラである。(キメラ:異なる複数の胚由来の細胞を持つ個体、またその現象。)同腹の雄には繁殖障害はない(
1)とする説がある一方で、未去勢雄ウシよりも繁殖不能症を示す確率が高いとする説もある(
2,3)。
診断法としては、温度計、試験管、精液注入器などを用いて膣が短いことを確認する方法がある(
3)。また、フリーマーチン診断用探針も発売されている(
3)。しかし、物理的な診断方法のみでは膣弁遺残など、フリーマーチンでないものを誤診することがある(
2)。PCR(正確・迅速)、核型分析(Karyotyping; 偽陰性あり・高価)などの精密検査が確定診断には必要である(
3)。また、同腹個体同士は互いに皮膚移植をしても脱落しない(
3)。性染色体キメラで繁殖能を持つものも報告がある(
3)ため、物理的な診断法と精密検査の両方を行うことが望ましい。
【引用文献】
(1)浜名克己、中尾敏彦、津曲茂久 編. 獣医繁殖学 第3版. 東京:文永堂出版;2006.
(2)Steenhold CW. Infertility Due to Nonflammatory Abnormalities of the Tubular Reproductive Tract. In: Youngquist RS, Threlfall WR, editors. Current Therapy in Large Animal Theriogenology. 2nd ed. St. Louis: Saunders; 2007. p.383-388.
(3)Troedsson MHT, Christensen BW. Diseases of the Reproductive System. In: Smith BP, editor. Large Animal Internal Medicine. 4th ed. St. Louis: Mosby; 2009. p.1419-1483
(4)Greene WA, Dunn HO, Foote RH. Sex-chromosome ratios in cattle and their relationship to reproductive development in freemartins. Cytogenet Cell Genet. 1977; 18: 97-105. DOI:10.1159/000130753
(5)Wijeratne WV, Munro IB, Wilkes PR, editors. Heifer sterility associated with single birth freemartinism. Veterinary Record. 1977; 100: 333-336